筆と墨、そして和紙の面白さに気付かされた – 墨画師・後藤薫

アート

墨画師(ぼくがし)として活動している後藤薫さん。10年以上前に出会ったときは切り絵作家として活動されていました。後藤さんの動物や木々など自然をモチーフとしたものが多く、動物や木々がまるでお喋りしているかのような印象です。

今回はゆっくりと墨画師として活動することになったきっかけなどを聞いていきたいと思います。

The Interviewee: どうして墨絵を描きはじめたんですか?

Kaoru Goto: 墨絵は元々切り絵の下書きとして描いてたの。下絵だからコピー紙に描いてたんだけど。美術館で見た十数枚連作の東山魁夷の襖絵の作品を見た時にめちゃくちゃ感動して。その夜寝られなかったくらい。で、次の日、自分の家の襖3枚に樹を描いたの。あんな大きな紙に絵を描きたいって思った時に、部屋に襖あるじゃん!って。仕事の合間に描いてたから完成まで1ヶ月位かかったんだけど、その期間すごく楽しくて。

それにその頃から、アトリエをシェアさせてもらってたんだけど、その相手が書家で。ライブペイント用の大筆を借りて描かせてもらったり、この紙が良いんじゃないってアドバイスもらえるようになって墨絵がますます面白くなっていったかな。

それまで我流でやってたけど、「この筆使ってみたら」とか「紙変えたらまた変わるよ」とか色々教えてもらうようになって気づけたことがいっぱいあって。自分の技術ではなく紙を変えるだけでかすれ方が全く変わったり、筆や紙を変えることで表情が変わる。それがまた面白くて。

今までは下書きとしてただ単に墨で絵を描くって作業だったけど、墨で絵を描くということが楽しいに変わった。今だに分からないことだらけだからこそ、墨を使って絵を描いているのかな。

TI: 樹の作品が多いですが、樹を表現するのはなんで?

KG: 元々は屋久島が大好きで、屋久島にある樹々を表現してた。樹々にはそれぞれ違った表情やエネルギーがあって。それが面白いな、すごいなって思うの。それぞれの表情やエネルギーを自分の中に取り込んで、そこから樹を描くのが好きなんだよね。実際の樹の描写っていうよりは、すごいな、面白いなと思った部分を含めて自分の中にある樹を描いている感じかな。

TI: 最近、自分で和紙を漉いたりしてますよね?何がきっかけですか?

KG: 描き損じた紙を捨てるのがもったいないなって。秋月の和紙職人・井上さんに和紙ができるまでの工程を聞いたり、体験させてもらったことがあるんだけど、すごい工程なのね。失敗するときは一瞬で失敗しちゃうんだけど、あの工程を聞いた後は紙を簡単に捨てれなくて。描き損じってもう使えないんだけど、捨てれないからいっぱい溜まってきちゃったのね。そのことを井上さんに話したら、「紙を水にとかして、もう一度漉りなおせば良いじゃない。」って。それでどうしたら良いかを教えてもらって、家でやってみたの。そしたら全然違うものになって、それがまた面白いなって。

TI: きっと何かの目的があるから今があると思うんですが、これから先にあるものとはなんですか?

KG: まだ見えてないんだよな。ただ、動物にしろ樹にしろ今の表現が今の時点では一番なんだろうけど、でもこれがほんとの一番とは思えなくて、でもそれがどういうものなのかはわからないから、いろいろ描いている感じ。100回描いたら何かが見えるかなあって。100回くらいじゃまだまだ見えないかもしれないけど。先のことは見えない、でもその過程もおもしろいかなあって。

最後に

福岡や東京で個展をやったりと、切り絵作家として勢力的に活動していた後藤さん。ここ数年は切り絵はやってないと言う話を聞き、どうしてなんだろうと思っていたんです。インタビューして、興味たたどって表現したいものを追い求めて、たどり着いたのが墨絵だったんだなって。

後藤さんの作品やスタイルが、今後どのような形に変わっていくのか楽しみです。

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