導かれるように書の道へ- 書家・小山翔風

shofu koyama 1 アート

福岡で書家として活動されている小山翔風さん。書家を志したきっかけ、そして作品への思いなどを聞いてみました。  

-小さい頃から書家を志していたんですか?

K:いいえ。(笑)

– ずーっと書道されていたから書家になったとかではなく?

K:小学校2年生くらいの時に一度習ったきり、30歳過ぎてデザイン書道と出会うまでは全くやってなかった。デザイン書道に足を踏み入れたのも仕事がきっかけ。パッケージデザインの仕事をしてたけど筆文字を使うことって多いの。会社にいるときはできる人に頼んでいたんだけど、フリーランスになってからは自分でやれたら良いなと思うようになって。

そんな時に、デザイン墨道家の平松先生とお会いしたの。12、13年前かな。

– じゃあ、それまでは書道とは関わりなく。

K:そう、全く。(笑)

– デザイン書道と書道ってやっぱり違うんですか?

K:デザイン書道は、パッケージや広告に使われる筆文字のこと。皆が思い浮かべる綺麗な文字を書く書道というよりは、創作書道・商業書道という感じです。

– デザイン書道と同時に書道も習っていたんですか?

K:デザイン書道だけ。習い初めて7年ほど経った時に、これ以上上手くならないなって限界を感じたの。上手くなるには基礎から書道を学ぶ必要があるなって。どうしようかと思っていた時に朴伝先生の社中展があっていて。話を聞くと基礎はもちろん墨象や創作まですべて学べるという。そこに飾ってある生徒さんたちの作品もすごく面白くて、後日教室に見学に行って朴伝先生の元で学ぶことを決めたの。

それがちょうど5年前。

最初は筆の持ち方も全然出来なくて、書道で筆を操るには筆を立てて使うってことも知らなかった。本当に基礎から習い始めたんだけど、それがすごく面白かった。

その道に進むための3つの条件

– では、そこから書の道へ進もうと思ったんですか?

K:私は、誰にでもその人の人生における「道」と「役割」があると思っているの。みんな自然にその道を選んで歩んでいる。その「道」に進む扉を開くのに3つの条件をクリアーする必要があると思っていて、その3つの条件というのが、素質(才能)、やりたいと思う意志、環境。この3つの条件がそろったとき、まるで誰かに「やりなさい」と言われているかのように目の前の障害物が全て無くなって、用意されている道が目の前にやってくる。そんな風に思ってるの。

40歳の時に朴伝先生のところで習い始めて、42歳の時に私にとっての3つの条件がすべて揃った。その時に「私は書家になるんだ。いや、書家になるべきなんだ。」と思ったの。

まず環境が揃った。

離婚をして、それまで家族第一で考えていた自分の人生を、自分のためだけに決めていいという状況になった。次に平松先生から「個展を一緒にしないか」と誘ってもらった。それまで小さな個展はやったことはあったけど、ギャラリーを借りて本格的な個展をやるのは初めてで作品も何もない状況だったけど、ちょうどその頃メインでやっていたデザインの仕事が無くなっていっぱい時間ができた。

それから素質。

東京の展示会に作品を出したら、初めて出した作品で奨励賞をもらったの。200点以上の作品の中から賞をいただけたことがすごく励みになった。

そしてやりたいと思う意思。

デザインの仕事が無くなって収入的には大変なんだけど、同時にデザインではなく書道を仕事にしたいと思っている自分に気付いた。町で看板や広告物を見ても、デザインではなく筆文字に感覚が反応して目で追ってしまう。暇さえあれば朴伝先生のところに教えて下さいって通っていた。何時間書いても全然飽きなくて、楽しくてしかたなかった。自分の感覚全てが書道に向かっていると感じたの。

環境が整って、賞という形で素質を認められて、書をかくことが楽しくて仕方なくて。これは書の道に進むための条件が3つ揃ったって感じたの。3つの条件が揃っても、勇気や決断が無ければその道には進まない。でも私はやろうって思った。

私の作品は私の愛なんです。

– どうして作品を作り続けるのでしょう?

K: 書家になるって決めたときから、そこに何の意味があるのかってことをずっと考え続けていたの。役割を持たないと、ただの自己満足のような気がして。

自分と向き合って向き合って考えて考えて考えて、作品を生み出す意味を見つけられた時に、やっと書をかいていいんだって思えた。

基本的に、私の作品は私の愛なんです。

昔から自分の周りの大事な人が苦しんでたり悲しんでいたりするのがすごく嫌で、なんとかしたくなる。いつだって周りの人には幸せでいてほしいけど、他の人の人生に対してできることってすごく少ないわけで。でも私の作品を通して勇気をもらった、励まされた、エネルギーを感じたっていう人がいれば、私の代わりに私の作品が誰かに寄り添い励ます役割を担ってくれると思ったの。

しかも私の作品が世界に出ていったら、私が会ったことのない人たちでさえ勇気づけたりできるなって思ったのね。私にしかできない表現で、私にしか伝えられないエネルギーであれば、私が作品をつくる理由はそこにある。

作品を作る上でのテーマを一言でいうなら「生きよう」。どの作品にも「一緒に生きよう」という想いと愛情とエネルギーを込めている。だから、これから先も「一緒に生きよう、精一杯生きよう」って皆に伝えていきたい。それが私の役割だと思うから。

最後に

優しさの中に力強さが漲っている小山翔風さんの作品。初めて小山さんの展示会にお邪魔した2年前、小山さんの作品の力強さに圧倒されてしまいました。それまで出会った「書」の作品とは全く違う感覚だったんですよね。「どれだけのエネルギーを注ぎ込めば、こんなに力強い作品ができるんだろう」って。

でも今回のインタビューでその謎がはっきりしました。小山さんの生きるということへの思い、そして作品を見る人への愛が十分に詰まっているからこそだったんです。

今もどこかで、小山さんの作品は「生きよう。あなたはひとりじゃない。」と訴え続けている。

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